内定取り消しの事例10選!違法になるケースと正当な理由の違いを解説
内定取り消しは法的に解雇と同等とみなされ、無効となる可能性が高いです。
本記事では、違法性が問われるケースと認められる事例10選を解説。
直面した際の対処法や相談先も紹介します。
内定取り消しが起きる主な原因と法的背景

内定取り消しは、学生や求職者にとって人生を左右する重大な出来事です。
企業側にとっても法的なリスクを伴う慎重な判断が求められる行為です。

単なる「予定のキャンセル」ではなく、法律上どのような意味を持つのかを正しく理解することが重要です。
「内定」の法的定義と労働契約の成立時期
企業が求職者に採用内定通知を出し、求職者がこれに対して入社承諾書などを提出した時点で、労働契約が成立したとみなされるのが一般的です。
つまり、内定期間中であってもすでに労働契約は成立しており、内定取り消しは実質的に「解雇」と同等の法的重みを持ちます。
そのため、企業は自由気ままに内定を取り消すことはできません。
内定取り消しが有効とされる法的基準
内定取り消しが認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。
「採用内定の当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるもの」
内定を出した時点では分からなかった重大な事実が、後から発覚した場合でなければなりません。
さらに、誰が見ても「これでは採用を続けるのは無理だ」と納得できる合理的な理由がない限り、内定の取り消しは認められません。

内定取り消しに至る原因は、大きく分けて「内定者(学生)側の要因」と「企業側の要因」の2つに分類されます。
| 原因の分類 | 主な具体例 | 法的判断の傾向 |
|---|---|---|
| 内定者側の要因 | 単位不足による留年(卒業不可) 重大な経歴詐称 業務に支障をきたす健康状態の悪化 犯罪行為やSNSでの不適切な投稿 | 事実関係が明白であり、就労が困難であると判断される場合、正当な理由として認められやすい傾向にあります。 |
| 企業側の要因 | 経営破綻や倒産 著しい業績悪化 事業縮小による採用計画の変更 | いわゆる「整理解雇」に準じて判断されます。「整理解雇の4要件(人員削減の必要性、解雇回避努力義務の履行など)」を満たす必要があり、認められるハードルは非常に高いです。 |
違法性が高いケースと正当な理由の判断基準

違法・不当な取り消しと正当な理由の対比

どのようなケースが違法性が高く、どのようなケースであれば正当と判断されやすいのか、主な判断基準を以下の表に整理しました。
| 区分 | 具体的な理由・状況 | 法的判断の傾向 |
|---|---|---|
| 正当な理由として 認められやすいケース | 卒業要件未達 | 学校を卒業できず、入社資格を満たせなくなった場合は正当な理由となります。 |
| 重大な経歴詐称 | 業務遂行や信頼関係に重大な影響を及ぼす嘘(犯罪歴の隠蔽や学歴詐称など)が発覚した場合。 | |
| 健康上の重大な支障 | 業務に耐えられないほどの健康状態の悪化があり、回復の見込みがない場合。 | |
| 違法性が高く 無効になりやすいケース | 主観的な印象の変化 | 「内定式での態度が気に入らない」「なんとなく社風に合わない」といった抽象的な理由。 |
| 調査不足による判明 | 選考段階で確認できたはずの能力不足や適性不足を、内定後に理由にすること。 | |
| 根拠のない経営不安 | 具体的な経営悪化の事実がないにもかかわらず、将来の不安のみを理由にすること。 |
経営悪化を理由とする場合の「整理解雇の4要件」
内定者に落ち度がなく、企業の業績悪化や経営破綻を理由に内定取り消しを行う場合は、「整理解雇」と同様の扱いとなります。

この場合、以下の4つの要件(要素)を総合的に考慮して有効性が判断されます。
1. 人員削減の必要性
経営上の高度な必要性があり、人員削減を行わなければ企業の存続が危ぶまれる状態であるかどうかが問われます。
2. 解雇回避努力義務
役員報酬のカット、希望退職の募集、配置転換など、内定取り消しを回避するためにあらゆる経営努力を行ったかが確認されます。
3. 人選の合理性
内定者を取り消しの対象とした選定基準が客観的かつ合理的であり、公平に運用されている必要があります。
4. 手続の妥当性
内定者に対して十分な説明を行い、納得を得るための協議を尽くしたかどうかが重視されます。

突然の通告や不誠実な対応は違法性を高める要因となります。
よくある内定取り消しの事例10選を紹介

内定取り消しは、法的には「解約権留保付労働契約」の解除にあたります。
ここでは、過去の判例や一般的な解釈に基づき、下記のよくある10の事例について違法性の傾向と判断のポイントを解説します。
| 事例カテゴリ | 内定取り消しの主な理由 | 違法性の傾向 |
|---|---|---|
| 卒業要件未達 | 単位不足等で学校を卒業できなかった | 低い(正当な理由) |
| 健康上の問題 | 業務遂行が困難な重大な疾病が発覚 | ケースによる |
| 虚偽申告 | 学歴詐称や重大な犯罪歴の隠蔽 | 低い(正当な理由) |
| SNSトラブル | 機密情報の漏洩や著しい不適切投稿 | 低い(正当な理由) |
| 反社会的行為 | 刑事事件による逮捕や起訴 | 低い(正当な理由) |
| 経営悪化 | 業績不振による人員削減(整理解雇) | 高い(要件を満たさない場合) |
| 能力不足 | 研修成績不良などを理由とした取り消し | 高い(違法の可能性大) |
| 妊娠・出産 | 妊娠を理由とした辞退勧奨や取り消し | 極めて高い(違法) |
| 身だしなみ | 髪型や服装が社風に合わない等の理由 | 高い(違法の可能性大) |
| 採用方針変更 | 会社都合による採用計画の見直し | 高い(違法の可能性大) |
卒業要件を満たせず入社できなかった事例
新卒採用において最も典型的かつ、正当性が認められやすい事例です。
留年や退学により卒業できなかった場合、そもそも「新卒」としての採用前提条件が崩れるため、企業側は内定を取り消すことができます。
このケースでは、学生側の自己責任となるため、違法性を問うことは困難です。
健康診断で業務困難な疾病が見つかった事例
入社前の健康診断で病気が見つかったことを理由とする内定取り消しは、その病気が「業務の遂行にどれほど支障をきたすか」で判断が分かれます。
例えば、伝染の恐れがある疾患や、通常の勤務に耐えられないほど重篤な状態であれば、労務提供が不可能として内定取り消しが認められる場合があります。

一方で、業務に直接影響しない持病や、通院・服薬でコントロール可能なレベルであれば、違法となる可能性が高いです。
学歴や犯罪歴などの虚偽申告が発覚した事例
履歴書や面接で伝えていた内容に重大な嘘があった場合、信頼関係の破壊を理由に内定取り消しとなることがあります。
具体的には、「大学卒業」としていたにもかかわらず実際は高卒であった場合が挙げられます。

また、業務に関連する資格を所持していると偽っていた場合や、重大な犯罪歴を隠していた場合なども該当します。
これらは採用の判断を左右する重要な要素であるため、発覚した時点での内定取り消しは正当と判断される傾向にあります。
SNSの裏アカウントで機密情報を漏洩した事例
近年増加しているのが、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)に関連するトラブルです。
これは企業のコンプライアンス違反にあたるだけでなく、情報漏洩による損害リスクが明白であります。
正当な取り消し理由として認められる可能性が高いです。
内定期間中に反社会的な行為を行った事例
内定から入社までの期間に、飲酒運転による事故、暴行、窃盗などの刑事事件を起こし、逮捕・起訴された場合です。
このような反社会的な行為は、企業の社会的信用を著しく傷つける恐れがあります。
「素行不良」として就業規則の解雇事由に相当するとみなされ、内定取り消しが有効となるケースが一般的です。

ただし、微細な交通違反程度であれば、取り消しまでは認められないこともあります。
会社の経営破綻や重大な業績悪化の事例
急激な業績悪化や経営破綻により、人員を受け入れる余裕がなくなった場合が該当します。
この場合、いわゆる「整理解雇の4要素(人員削減の必要性、解雇回避の努力、人選の合理性、手続きの妥当性)」に準じた対応が求められます。
単に「売上が落ちたから」という理由だけで、十分な説明や補償もなく一方的に取り消すことは違法性が高く、損害賠償請求の対象となり得ます。
能力不足を理由に一方的に取り消された事例
内定後の研修課題の提出遅れや、成績が振るわなかったことを理由に取り消しを通告される事例です。
新卒採用は基本的にポテンシャル採用であり、即戦力のような高い能力は求められていません。
学生レベルの能力不足を理由に内定を取り消すことは違法となるケースが多いです。
妊娠や出産を理由に内定辞退を迫られた事例
内定期間中に妊娠が発覚し、それを会社に伝えたところ、内定取り消しや自主的な辞退を迫られるケースです。
業務内容が母体に危険を及ぼす場合などは配置転換などで対応すべきであり、雇用契約自体を破棄することは認められません。
内定式後の整髪や服装を理由にした事例
内定式や懇親会での服装、髪型、髪色が社風にそぐわないとして、内定を取り消された事例です。
まずは注意や指導を行い、是正を求めるのが筋であり、いきなりの内定取り消しは違法性が高いと判断されます。
採用方針の変更により取り消しを通告された事例
「社内の方針が変わり、今年の新卒採用は中止することになった」といった、会社都合による一方的な取り消し事例です。

経営悪化のケースと同様、内定者には何の落ち度もありません。
企業側は内定者に対して誠実な説明を行い、他社への就職斡旋や金銭的な補償を行うなどの対応が求められます。
これらの対応を怠り、紙切れ一枚で通知するような対応は違法性が極めて高く、無効とされる可能性が高いです。
内定取り消しを通告されたら確認すべき証拠と相談先

万が一、企業から内定取り消しの連絡を受けた場合、焦って承諾したり、感情的に反論したりすることもあるでしょう。
しかしまずは冷静に状況を整理し、証拠を集めることが重要です。
ここでは、不当な取り消しに対抗するために必要な証拠や、然るべき相談先について解説します。
身を守るために確保すべき証拠と記録
内定取り消しが不当であることを主張するためには、「労働契約が成立していたこと」と「取り消しの理由が不当であること」を証明する必要があります。
言った言わないの水掛け論を防ぐため、可能な限り書面やデータでの保存を心がけてください。
内定の成立と取り消しの事実を証明する資料
まずは、自分が入社予定であったこと、そして企業側から一方的に契約を破棄されたことを示す資料を揃えます。
| 証拠の種類 | 具体的な資料と保存のポイント |
|---|---|
| 契約成立の証拠 | 内定通知書、採用通知書、労働条件通知書、入社承諾書の控え、内定式への案内メールなど、企業が採用の意思を示した全ての記録。 |
| 取り消しの証拠 | 内定取り消し通知書、解約通知書、取り消しを通告されたメールやLINEの履歴、電話や面談の録音データ。 |
| 経緯の記録 | 面接時のメモ、担当者とのやり取りの日時や内容を記録した日記、他社の選考辞退を指示された(オワハラ)際の記録など。 |
企業に対して具体的な理由の開示を求める
内定取り消しを通告された際は、単に「取り消します」という結果だけでなく、「なぜ取り消すのか」という具体的な理由を確認する必要があります。
法的に正当な理由(整理解雇の4要件を満たす経営悪化や、重大な経歴詐称など)がない場合、その取り消しは無効となる可能性が高いためです。
「内定取り消し理由書」の請求
解雇の場合と同様に、内定者には取り消しの理由について詳細な説明を求める権利があります。
企業に対して「内定取り消し理由書」や「解雇理由証明書」に相当する書面の交付を請求してください。

書面で理由を明示させることで、後付けの理由による正当化を防ぐ効果があります。
個人で解決できない場合の相談先一覧
企業側が誠実な対応をしない場合は、労働問題の専門機関に相談することをお勧めします。
自身の状況に合わせて適切な窓口を選んでください。
| 相談先 | 特徴とできること |
|---|---|
| 大学のキャリアセンター | 新卒学生の場合、まずは大学へ相談しましょう。大学側から企業へ事実確認を行ったり、今後の就職活動のサポートを受けたりすることができます。 |
| 総合労働相談コーナー | 各都道府県の労働局や労働基準監督署内に設置されている窓口です。解雇や内定取り消しを含む労働問題全般について、専門の相談員に無料で相談でき、解決への助言や指導、あっせん制度の案内を受けられます。 |
| 弁護士・法テラス | 法的な観点から内定取り消しの無効を主張したい場合や、損害賠償請求を検討する場合に有効です。費用が心配な場合は、法テラス(日本司法支援センター)を利用すれば、無料法律相談や費用の立替え制度を利用できる可能性があります。 |
| ハローワーク | 新卒応援ハローワークなどでは、内定取り消し後の再就職支援を行っています。また、企業に対して事実関係の確認を行う場合もあります。 |
まとめ
内定取り消しは、経歴詐称や業績悪化など客観的で合理的な理由がない限り無効となる可能性があります。
納得できない場合は泣き寝入りせず、通知書などの証拠を保全し、弁護士や労働基準監督署へ相談しましょう。
